MENU

入学イベント
資料請求
WEBエントリー

ニュース

谷口悟朗監督×ヤマサキオサム先生ロング対談

谷口悟朗監督×ヤマサキオサム先生ロング対談

『コードギアス 反逆のルルーシュ』など多くの人気作品で知られ、最新作『ジャングル大帝』では手塚治虫の名作アニメのリメイクに挑戦する谷口悟朗監督。アニメーション学科講師のヤマサキオサム先生とは、谷口さんが制作進行としてアニメーション業界に入ったばかりの時代からの長い付き合いだということで、お互いをよく知る2人に「若い人にアニメーションを教えるとはどういうことか?」について、伺いました。

トップクリエイターならではの、厳しい言葉の中にも、将来のアニメ業界を支える若い人たちへの期待とアドバイスが込められた、熱いメッセージです。

――谷口さんは、制作現場で若いスタッフに対して指導されることも多いと思いますが、まずどのようなことから教えられているんでしょうか。

谷口監督:

セクションによって違うんですけど、『どうすれば食べていけるのか、という意識からまず入らないと、絶対に甘えて駄目になる』というのは共通して言いますね。

あとはアニメーター、演出、制作、企画、何をやるかでも生き方は違うので。とくにアニメーターさんには気を使いますね。技術は先輩が教えてくれると思うんですけど、裏技の部分を誰も教えてくれない。ある程度アニメーターとしてキャリアがあれば、制作スタジオから拘束料や半拘束料をもらえたりするんですけど、その収入をどう使うべきかみたいなことはなかなか教わりませんよね。

――ヤマサキ先生が学院で行われている意味での教育とはまたちょっと違いますね。

ヤマサキ先生:

そうですね。谷口くんがやっているのは、最低限それで生活している、プロの人達に対しての教育だから。僕が学院でやっている、プロになるために足りていないものを補う教育とは本質的に違うよね。

――足りないものを補う授業というのは、何人もいる学生の中の、どこにレベルを合わせて教えるかが難しくはないですか?

ヤマサキ先生:

30人以上いるクラスに対して授業を行なう場合、基本的には上のレベルの学生を引っ張り上げることが、全体を底上げするためにも一番いいと思っています。できない学生に合わせると、できる学生が飽きて授業として成立しなくなるんです。トップを引き上げていくと、その下のレベルの人達には出来るようになった学生に教えさせる。人に教えるためには自分が理解していないと教えられない。その事が出来るようになった学生の理解をより深いものにするし、わからない学生にはどこが解らなかったのかを明確に指し示せる手段になります。……こういった流れができて、段階的に「解らなかった人が解かった瞬間」を目撃できるんですよ。

人は「自分が分らなかったことはここだ」ということが分かったときに、できなかったことができるようになる。それが教え方の一つのテクニックだなというのが、10年間、講師をやってきて分かってきたことですね。

――谷口監督には先ほど少しだけヤマサキ先生の授業をご覧いただきましたが、感想はいかがですか?

谷口監督:

教科書を使わずに、実習とノートスタイルで最後に(注1)カリキュラムシートを書かせるというやり方はとても理にかなっていますね。自分で積極的に聞こうとしないとノートを取れないですし、講義の最後にカリキュラムシートを書くということは、その日にやった内容を自分の中でもう1回まとめ直すということですから、それによってその人の習熟度というか、理解度の確認が取れますから。

谷口監督

注1:カリキュラムシート 講義の終わりに、学生が理解度や授業スピードをどう感じたかを、記入して提出するもの。質問を書くと、講師がそれに回答を書き、学生に返却される。講師と学生のコミュニケーションツールの役割も果たしている。

――実際の現場では、谷口監督はどのように新人を教えていかれるのでしょう?

谷口監督:

現場で、まず勧めることがあります。それは「基礎に当たる」ということです。

ターゲットと、やるべきことがはっきりしている作品――具体的には『ドラえもん』のような作品――を徹底してやりなさい、と言います。今の商業アニメーションは応用編に特化した作品が多いがゆえに、いきなり応用から入っちゃう新人さんが多いんです。ところが結局、この応用ができても、それで他の応用に行けるかと言ったら、基礎がないと行けないんですよね。

『ドラえもん』を作れれば、深夜の「萌えもの」も作れますけれど、逆はありえません。中途半端な「萌えもの」をやっているくらいだったら、徹底して基礎に習熟しなさい、とは言っています。なので、「AMGでは基礎をどう徹底させるんだろう?」というのは興味があります。難しいことだと思いますから。

ヤマサキ先生:

意識の大切さは、本当に一番最初に言います。

電源を入れて、システム立ち上げて、こういう素材を入れればこういうものができる……という技術だけ教えるのはものすごく簡単で、露骨にいえば学校はそれだけ教えればいい。でもそれは、興味さえあればマニュアルを読めば大抵できることなんですよね。事実、僕らは学校で教わらなくてもできるようになってきたわけですから。

実は、できるできないは意識の問題で、「自分は何が分かっていないのか」がまず理解できる必要があるし、「自分が何をしたいか」がわからないのに知識として技術を覚えても、使いようがないですよね。基本的には、そこを早く認識してもらう必要があると思います。

ヤマサキ先生
――意識する、というのは具体的にはどういうことでしょうか?
ヤマサキ先生:

たとえば、何も見ないでいろんな物が“描けてしまう”子がいます。僕らから見ると「何を描いてるの?」というようなもの……例えば、「カメラを描きなさい」と言ったときに、何も見ずにカメラの絵を描く。それで、「そのカメラはどこのメーカーの何ていうカメラ?」と聞くと、「分かんないです」と答える。それでも平気で描けちゃったりする。

意識のレベルが高くないと、それがおかしいということも気づかずに“描けてしまう”んです。ここをまず1ステップ上がって、「どんな形だろう?」「これは分からないな」と感じることがまず必要なんですよね。それが分かれば、自分で調べることもできるようになって、今まで描いていたものよりもはるかにレベルの高い絵が描けるようになる。

――なるほど。

ヤマサキ先生:

そこをクリアできても、今度は描けない自分が分かった瞬間に、壁にぶつかることもある。意識のレベルは上がったのに、技術レベルが到達してないから、苦しくて、あんな風に描きたいと思っても描けないというジレンマの中で「やっぱり才能がないのか」と思ってやめてしまう人もいます。

でも、意識のレベルが上がった時が、一番技術力が上がっていく最中で、あるときにパッと描き方が分かったりする。たとえば、上手い人が描いているのをみているときに、そういうわかる瞬間があったりする。みんなそういうステップを踏んで描けるようになっていってるんだけど、才能があるとかないとか分かったような理屈をつけて苦しい状況から逃げてしまう人って多いですね。

谷口監督:

だから、学生には、徹底して「君たちには才能がない」ということを伝えてほしいんですよ。

ヤマサキ先生:

(笑)

谷口監督:

いや、大事なことだと思うんですよ。君たちは才能が何もない、価値がない人間だということを先に言ってほしい。

ヤマサキ先生:

そうですね(笑)
おっしゃりたいことはわかります。

対談中のおふたり
谷口監督:

私自身、無能だと思っていますが、優秀な諸先輩がたはもっとすごい。自分で才能があると思う人間ほど使い物にならないですよ。現場でもたまに「○○の作画スタジオにいた」「○○の現場にいた」という要らないプライドだけが大きくて、実際に他の現場では全く使い物にならない人がいるんですよ。逆に「自分には才能は無いけれど、やりたいんだ」という人がいれば、そちらの方が間違いなく伸びます。

必要なのは、いわゆる社会人の基本と同じことだと思うんですよ。“ホウレンソウ(報告・連絡・相談)”とかね。アニメ業界に限らず、普通の社会人の基本。どの現場にいっても、これができないとコミュニケーションがとれませんから。

あとは、アニメーターを志している学生さんなら、当然ですが講義とは別に家でも毎日20枚から30枚は絵を描いているんですよね? と私は思いますよ。

ヤマサキ先生:

そうですよね。

谷口監督:

実際に、いきなり現場に入った人というのは、毎日スタジオで先輩に怒鳴られながら、動画としてずっと描いてるわけじゃないですか。その人たちと同じレベルに達しなければならないということだから、当然やってますよね? というのが前提だと思いますね。

ヤマサキ先生:

義務教育のような、卒業すればとりあえず日常で困らない程度に読み書きをできるようになるイメージで、「学校」に学費を納めれば、2年後には当然プロとしてやっていけるようにしてもらえるという考えの人もいるかもしれない。

谷口監督:

そこは「あなたの努力があった上で、ですよ」というのがつくわけじゃないですか。現在の問題点の発見とその対策。それをどうクリアしていけばよいのか? ということを徹底して伸ばしていけば、プロとして業界で生き残っていけると思うんですよね。

ヤマサキ先生:

それは、社会に出たときの基本ですよね。そういう人材を育てる時期が来てるんでしょう。やっぱり、下の世代が育ってくると、上もずいぶん楽になりますから。物事の考え方が分かり合える人間がそばにいてくれると、非常にいい。ライバル心が持てるという意味でもね。

谷口監督:

そうですね。まったく、その通りだと思います。

【谷口悟朗監督からのメッセージ】
私が映像や、もしくは演劇などでご飯を食べたい!と思ったのは高校のときです。ただ、実写なのか、舞台なのか、もしくはアニメなのか……というのはその時点では決まっていませんでした。映画学校に通って、いざ卒業となったときに、『ともかくアニメだけはまだ関わったことがないから、アニメをやるか』という感じで決めました(笑)。

ただ、とにかく『自分は監督になれる』と思っていました。私は、若い人たちに『君たちは才能なんかない』と言うようにしていますが、個人がその自信を内に秘めている分には構わない。周りがそれを認めてしまうのはよくないというだけです。

実際に、監督にしろ、プロデューサーにしろ、脚本家にしろ、何らかのチーフ職を目指すとしたら、相当タフじゃないと務まらないです。そのチーフについて行くスタッフのためにも、チーフはタフじゃないといけない。潰れてはシャレにならないですからね。

コンプレックスから生まれるモチベーションもあります。かくいう、私もそのタイプです。『才能なんかない』というような周囲の声をバネにして、大きく伸びてください。

【ヤマサキオサムプロフィール】

ヤマサキオサム

企画・プロデュース、アニメーション監督。アミューズメントメディア総合学院では「演出技法」講師を担当。
OVA「戦国奇譚妖刀伝」原案、監督「ギャラリーフェイク」セカンドシーズン、最新作「イタズラなKiss」「地球へ…」の監督をはじめ、「神魂合体ゴーダンナー」「サムライガン」「蟲師」「エンジェルハート」など、多数の作品の演出を手がける。またアニメだけでなく「ギルティ・ギア-X」シリーズ、「幻想魔伝 最遊記 Retribution」など、ゲームのプロデュースも手がける。

【谷口悟朗(たにぐち・ごろう)プロフィール】

谷口悟朗

映画学校を卒業後、制作進行としてJ.C.STAFFに入社。OVA『アーシアン』(1989年)「風魔の小次郎」シリーズ(1989~1992年)等に携わったのち、フリーに。『絶対無敵ライジンオー』『機動武闘伝Gガンダム』などのサンライズ作品に参加し、イベント上映作品『ONE PIECE 倒せ!海賊ギャンザック』(1998年)で初監督。翌年の『無限のリヴァイアス』でテレビシリーズ監督デビューし、以降、数々のヒット作を手がける。その他の作品に、ストーリー原案も担当した『コードギアス 反逆のルルーシュ』『同R2』(2006年、2008年)。そして2009年、手塚治虫の名作を現代的な新設定で描くテレビアニメ『ジャングル大帝』に挑む。

収録:2009.05.27
インタビュー:野口周三(AMG学院長)
構成:平岩真輔、前田久

AMGをもっと知ろう

2分でかんたん申し込み!

学院の資料を取り寄せる

声優エンタメチャンネル放送中
声優エンタメチャンネル放送中