ちょっと切ないSFファンタジー「ふたつのスピカ」の作者、柳沼行先生インタビュー

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ふたつのスピカ 14
© 柳沼行・メディアファクトリー

●どのようなきっかけで、「ふたつのスピカ」の構想を練られたのでしょうか。
最初に「ふたつのスピカ」(以下「スピカ」)があったわけじゃないんです。「2015年の打ち上げ花火」などの5つの短編が先ですね。

もともと、学生時代に吹奏楽部にいたこともあって、楽器が好きなんです。それで、ハーモニカの本を読んだときに、「リトルレディ」というハーモニカが、初めて宇宙に行った楽器だというのを知ったんです。こういうところから、少女と宇宙のつながり、ということを思いついたんですね。

それと、学生時代に長野に行ったとき、星空がすごくきれいだったんです。そのとき見上げた星空に、本当に感動して、こういう感動を作品にも活かしたいと思っていました。

キャラクターで言うと、アスミより、ライオンさんのほうが先にいました。ライオンさんの正体は何者だ?という少し別の話があって、それが紆余曲折を経て「2015年の打ち上げ花火」になりました。

でも、連載ということになると、主人公の年齢が高くてはフラッパーの読者層の共感を得るのは難しいと言われたんです。アスミの場合も、この作品では小学校1年生で、逆に幼すぎました。なので、短編の連作の中でアスミを成長させようってことになって、そのアスミが「スピカ」のアスミになっていきました。5つの短編ですでにアスミ自身は成長してきたので、「スピカ」ではどちらかというと、アスミが周りの人に影響を与えていく、という話になっています。

●「ふたつのスピカ」では、絵以上に、言葉が心に響くように感じることがあります。どんなところに気をつけていらっしゃいますか?
特にモノローグは気を遣いますが、キャラクターのセリフはそうでもないですね。とにかく、変に飾らないような、ストレートな表現を心がけています。

●ご自身の作品の中で、どのキャラクターが一番好きですか?
どれも好きなので…。でも、描いていて楽なキャラクターはいます(笑)
それは圭ちゃんなんですが、彼女は何を描いても許されちゃうんです。

今は圭ちゃんと万里香だけですが、最初の設定では、アスミの友人には他にもうひとり女の子がいました。3人とも美人に描いてたんですけど、編集長に美人はこんなに要らないだろう、とか、3人じゃなくて2人で良いんじゃないか、とか言われて修正していくうちに、圭ちゃんだけはどんどん普通の女の子になっていきました。言い方は変ですが、ちょっと気の毒なキャラなんです(笑)だから、圭ちゃんは何でも許されちゃうんですね。

●ご自身と似ているキャラクターは?
うーん、見当たりません。自分にないものを持っている、そういうキャラクターを作るからですかね。まぶしいもの、「自分がこうだったら良いのに」と思うキャラクターを描きたいんです。描いている本人でさえ、「こんな学生時代だったら良かったなぁ」なんて羨ましくなることがあります(笑)

●デビューするまでの経緯を教えて下さい。
学生の頃、19歳から20歳くらいでしたが、初めてジャンプの新人賞に応募して、そこで審査員特別賞のようなものをいただきました。でも、そこからしばらく描いていない時期があったんです。何かあったのではなくて、その頃はまだ描きたいものがはっきりしていなかっただけなんですけど。

それからしばらくして、ビジネスジャンプの新人賞とコミックフラッパーの新人賞、ほぼ同時期に応募しました。ビジネスジャンプでは佳作をいただいてすごく嬉しかったんですけど、フラッパーは最終選考止まりで受賞はできませんでした(笑)(ちなみにどちらの作品も「スピカ」の単行本に掲載されてます)どちらも担当さんが付いてくださるということだったんですけれど、これからのことを考えたときに、ぼくは描くスピードが速い方ではないので、隔週の雑誌よりは月刊の方が良いと思ってコミックフラッパーにお願いしました。

●ペンネームの由来は何でしょうか。 ペンネームは、漢字3文字が良いなと思っていました。宮崎駿さんとか、すごい方が漢字3文字だったので(笑)ちょっと字は違いますが、本名が、「ヤギヌマ コウ」まで一緒の漢字4文字なんです。そこから漢字1文字を取って、「柳沼 行」になりました。

●マンガのアイディアはキャラクターから考えますか、ストーリーから考えますか?
ストーリーから、というか描きたいシーンに合わせてストーリーを作ります。
宇宙に関するマンガを描いているからといって、資料に合わせてストーリーを考えることはないんです。だいたいいつも近所の図書館に行って、ストーリーに合わせて資料を探していました。もともと、資料や知識に縛られても良くないと思っているんです。事実だけじゃなくて、「許されるウソ」みたいなものがマンガでは表現できるので、自分の内側から、「描きたい!」と思えるようなものを描きたいと思っています。

●アシスタントをされたことはありますか?
アシスタントの経験はないんです。いま、どなたかにお願いしているということもありません。連載の最初の頃、原稿が遅れそうになったときに、本当は良くないんですけど、当時の編集長の松岡さんや編集の人たちにトーンやベタを手伝ってもらったことはあります(笑)
アシスタントさんには、背景とか、他にもいろいろなところをお願いすることになるんでしょうが、きっと、自分の絵と違うので変な感じがすると思うんです。ぼくの絵柄で背景だけがものすごくリアルだったら、やっぱり違うんじゃないかな、と(笑)

●1日のサイクル、1ヶ月のサイクルを教えてください。
しっかり決めているわけじゃないんですが、だいたい、月末に締切りがあって、2~3週間くらいはネームにかかりきりです。締切り間際にネームを上げて、すぐに原稿に入ります。 セリフとか設定とかに矛盾があったら直しが入りますけど、基本的には出したネームでそのままOKになってます。他の作家さんのこととかあまり聞けないのでわかりませんが、ぼくがネーム上げるの遅くて、担当さんが諦めているだけかもしれないですけど(笑)

●ネームに詰まることはありますか?詰まったときは、どうやって解決されていますか?
しょっちゅう詰まってます(笑)そういうときは、前に読んだ、脚本家さんの本に書いてあったことを参考にしてます。「他のことに目を移すような書き方をするストーリーは、本当に書きたいことではない」というようなことだったと思います。自分が途中で気分を変えながら書いたようなストーリーは他人にとってもそんなに面白いストーリーではない、ってことですよね。それだけが正しいとは思いませんが、ぼくの場合は、悩みに悩んでも書けないときは、そのストーリーを一旦やめてしまいます。

あ、気分転換しない、といっても、寝転がったり、立ったり歩いたりはしますよ(笑)

それから、ネームは最初にセリフだけを書いて作ります。構図も同時に考えると、キャラクターの絵とかが気になって、ストーリーの流れが止まってしまうんです。だから、まずセリフだけで考えて、頭の中で映画を作って、それを紙に落とし込む、というやり方で進めています。やっぱり、ストーリー、流れを大事に、という感じです。

●マンガやイラストを描く際はアナログですか。愛用している画材はありますか。
原稿は、鉛筆で下描きして、時間がないときはそのまま、あればペン入れをして、スキャンしたものをきれいにしてフォトショップで着色、それをトーン処理しています。どうしてもネームに時間をかけてしまうので、原稿にかけられる時間は多くないんです。だからトーンなどの仕上げはパソコンでやっています。カラーイラストは、フォトショップとペインターですね。

 好きな画材は鉛筆です。ペン先はどうしても慣れなくて、使いにくいんです。上から下への線は引けても、下から上への、すくい上げるような線が引けないんですよね。そういうところは、原稿を回して描くものなんでしょうけど、どうしてもそれが面倒で(笑)
やっぱり、ストーリーと画力とキャラが総合的に良い作品を描けることが大事で、その目的に合った画材を選ぶことが必要だと思います。ぼくには鉛筆が合っていて、できれば、次回作は、鉛筆で描きたいと思ってるんです。

●マンガを描かれていて、どんなところが一番好きですか?
そうですね、ネームが終わったときは、本当にほっとするので、この瞬間が好きです(笑)ネームにすごく時間をかけるので、締切り間際になって原稿に取りかかることが多いんです。そのせいで、原稿を描くうえでの楽しさを味わえていないのが残念ですね。
あとは、単行本の表紙も楽しいです。

●「マンガ家になってよかった!」と思う瞬間はどんな時ですか。
マンガを描くのは本当に大変なんですけど、自分が描きたいもの、表現したいものを形にできるところです。

●マンガ家に必要なことはどんなことでしょうか?
色々なことを経験することかなと思います。ストーリーを書くときも、セリフも、経験に裏打ちされている方がすんなり入っていくと思うんです。

●柳沼先生が「これはすごい!」「面白い!」と感じるマンガは、どのような作品でしょうか。
読後感、余韻が強く残るマンガが好きです。「こんなマンガ描きたい」って思わせてくれるような感覚。いままで読んだ中では、『11人いる!』(萩尾望都/小学館)が一番ですね。ほんとうに大好きな作品です。

●「ほしのこえ」の挿絵も担当なさっていましたが、新海さんの世界観を表現するために気をつけていらした点があれば、教えてください。
このお話をいただいたとき、ぼくは本当にデビューしたてで、どうしてお話をもらえたのか、わかりませんでした。とにかくいただいたDVDを観て、世界観を壊さないように、作品を傷つけないように、画面をそのまま描くような感じでした。
いま思うと、新海さんは、描きたいように自由に描いても許してくれたかなと思えますが、そのときは自分を抑えてましたね。いま描くことができるなら、もっと違うものになると思います。

●最後に、これからマンガ家を目指す人たちへのメッセージをお願いします!
たくさん、色々なことを経験してください。たくさん考えて、妄想して(笑)、経験して、とにかく「描きたい!」と思えるものを形にするのが良いと思います。

マンガを描くのは大変なんですけど、形になったときの喜びとか、描きたいものを描ける楽しさは大きいので、あきらめないで、と思っています。

< 柳沼 行(やぎぬま・こう)さんプロフィール >
1973年東京・飯田橋生まれ。
デビュー作「2015年の打ち上げ花火」(コミックフラッパー2000年7月号)以来、その叙情的なストーリーと温かい絵柄で多くのマンガファンを魅了する。
デビュー作を引き継ぐ一連の「アスミ」シリーズで絶大な人気を博し、コミックフラッパー2001年10月号より「ふたつのスピカ」を連載開始。現在もっとも注目されているマンガ家のひとり。

●コミックフラッパー
http://www.comic-flapper.com/

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