現在、アニメ化やゲーム化もされて大人気を誇る作品『鋼の錬金術師』。この作品は、錬金術というモチーフを使い、多彩なキャラクターと軽快なストーリーで見せる少年マンガです。そんな人気・実力ともに若手筆頭作家である作者・荒川弘さんに、デビューまでの経緯や実際どのようにしてマンガを制作しているのか、またその姿勢について筆記インタビューを行いました。

■荒川弘 インタヴュー

＜デビューまでに関して＞

「鋼の錬金術師」は
現在22巻まで発売中！

1、デビューされるまでの経緯を教えてください。

実家が酪農（兼畑作）だったのでそれを手伝いつつ、イラストや4コマの仕事をぽつぽつと。25の時に「少年ガンガン」の賞にマンガを投稿して受賞。

2、お家を手伝っていらした時に、マンガ家になろう・マンガを投稿しようと思われたきっかけは何ですか？

小さい頃から絵を描くのが好きだったので、マンガ家は目標というか、漠然とではありますが「ああ、自分はマンガで食ってく人生になるんだろうなぁ」と、妙な自信だけはありました。後継者問題とか色々事情がありましたので、弟の進路が決まるまでという約束で25の春まで農業をやって、期限が切れると同時に投稿作を描き始めました。

3、その前にマンガを描いていたりしていましたか？　またそれはどんな活動を？

歴史読本に出ていた歴史好きサークルに入ってみたら、そこがいわゆる歴史同人サークルでした。考察あり、マンガあり、小説ありで、皆何かしら書く人達だったので触発されて三国志の 4コママンガをちょこちょこ描くようになりました。

4、受賞作『STRAY DOG』を描いた時に苦労なさったことはありますか？　それはどんなところですか？

〆切一週間前に両親が九州旅行に行ってしまい家事農事全てやりながらマンガを仕上げるハメになった事。元々この九州旅行は私が両親にプレゼントしたもので、しかも投稿作を描いている事は言ってなかったので完全に自業自得だったのですが。

＜デビュー後に関して＞

5、受賞作が載ってデビューになりますが、『鋼の錬金術師』連載までの大まかな流れを教えてください。

受賞作が載って賞金が入ったのでそれを引っ越し代に充てて上京→アルバイトをしながらガンガン本誌に読み切り1本→衛藤ヒロユキ先生の元へアシスタントに入る→アシしたりアルバイトしたりゲームアンソロやレポマンガ描いたり→読み切り『鋼の錬金術師』のネーム60数ページを担当氏にいきなり送りつける暴挙 →「もうすぐ連載コンペがあるから連載用に描き直せ」→連載ネタなんて無いよギャワー→七転八倒の末コンペ通過→「じゃ、来月までに1回目描いてね」→時間無いよギャワー→連載開始

アシスタントと平行して色々バイトしました。宅急便仕分け、チラシ配り、警備員、弁当屋……ガテン系が好きみたいです。

6、そのアシスタント経験で一番思い出深いことは何ですか？　また技術的・精神的にも身についたことはありますか？

担当さんが作業机の横で写植をにぎりしめてじんまりと原稿の仕上がりを待っていたクリスマスの夜。

7、『鋼の錬金術師』についてお伺いします。連載を始めるにあたり、一番気をつけたことはなんですか？

少年誌でやっていい表現、やってはいけない表現の区別。 自分の中でやっていい表現、やってはいけない表現の確認。

8、どのキャラも人間味があって魅力的です。人数も多いですが、描き分けで気をつけていることは？

「一芸に秀でた馬鹿」が好きなのでそういうキャラが多いかもしれませんです。それと前述の歴史サークルのおかげで、人間を描く事のスタートがおっさんばかりだったので今も気を抜くとおっさんばかり描いてしまいます。少年誌なんだからもっと若者を描かねば……。

＜マンガ制作に関して＞

9、連載作品は流れや引きなども重要だと思います。ネームを考える時に一番気をつけていることは何ですか？

キャラの行動とセリフ。ストーリーはほぼ決まっていますが、キャラクターはいわゆる「ナマモノ」ですから、そのストーリーに放り込んだ時、そいつがどんな行動を取るかシュミレートを何通りかしてみます。作者が「こいつアホちゃうか」と思う事をたまにしてしまう奴（主に主人公）もいますが、「ま、こいつならしゃーないか」とあきらめて描き進めます。

10、また、作画をする時に一番気をつけていることな何ですか？

画面の見やすさ。

11、使用している道具一式について教えてください。

キャラクター主線はゼブラGペン。背景・効果はゼブラ丸ペン。原稿用紙はKMKケント紙200kgの八ツ切り。インクはカイメイドローイングゾルK。

12、掲載誌「ガンガン」は少年誌ですが、少年誌で描く際に気をつけていることはありますか？

基本は7の回答あたりで。後はなるべくカラッとうじうじしないで前へ進む人々。家族は仲良く……というか、どうも私はヒビの入った家庭というものが描けないらしいです。

13、今後やってみたいジャンルや、こんなタイプの作家になりたいという理想はありますか？

『鋼の錬金術師』が終わったら絶対やりたい！と思ってる長いのがひとつ。しかし自分にとって未知のジャンル。取材にも時間がかかりそうで関係者もけっこうお年をめしていらっしゃるので焦っています。短編はぼこぼこと色々あります。忍者とか、宇宙漁師とか、格闘バカップル学園ラブコメとか、ウエスタンとか。

聞き手：杉山りか

[PROFILE]
荒川　弘
5月8日北海道生まれ、A型。1999年『STRAY DOG』にてエニックス新世紀マンガ大賞の大賞を受賞し、同作が「月刊少年ガンガン」99年8月号に掲載されデビュー。その後、2000年5月に『上海妖魔鬼怪』を発表。2001年8月からは現在も連載中の『鋼の錬金術師』を執筆している。また、『鋼の錬金術師』にて2004年度第49回小学館漫画賞を受賞。